Kalessin Action ― The Never Ending Endeavour ―

地震・火山専門の研究開発員のブログ。あららぎハカセ(理学)。つくばで高いところに行くモノ🛰の中身を作ってます。

研究者の流儀

 すっかりご無沙汰になってしまいました。今学期はRAを貰って現在データ解析をがんばっているところですが、下手をすれば半年強やってきたプロジェクトがフイになりかねない事態です。解析手順としては佳境に差し掛かっているのとは裏腹に状況としてはより崖っぷちになっているコントラストに逆説的な快感を抱いている今日この頃です。

 データ解析にちょっと手間取っているのは、一つは僕がMatlab文化に不慣れなこと、もう一つは担当教官の研究者としての方針と今までの自分の研究スタイルのずれを特にここ何ヶ月か修正し続けていたからでしょう。ちょっとまとめてみました。

“Do your research, first”

 これは、研究主体の大学教授全般の言わば暗黙の了解でしょう。彼だけではありません。僕が現在所属している学科では最初はTAを任されるのですが、どの先生も“あまり研究時間を削らないように”との通達を貰っていました。僕の担当教官は“君はここに授業を取りに来たのでもなければTAをやりにきたのでもない。研究をしにきたんだ!”と事あるごとに強調していました。
 彼も教授ですので授業はしなくてはいけません。が、彼は授業は嫌いです*1。2日に一度は“授業なんて嫌いだ〜”という叫び声が聞こえてくるほどです*2
 極力研究に集中。とにかく他の事はコンパクトに終わらせる。ここでの鉄則です。

切れのある解説の一例

“Accuracy, 100%”

 特にこの数ヶ月苦労していたところです。僕はプログラミングの勉強自体はかなりまえからやっていたのですが、研究ベースでは今回が初めてです。プログラミングをやっていると結構共通の部分とか、必要な情報の集め方とかいったことは大体分かっているのですが、“正確なプログラムを組む技術”というのは怠け者ゆえに習得していませんでした。Matlabはご存知のように科学データを計算・図表化できる非常に高度なプログラムです。信頼に足る計算結果を出すにはそうした環境のメリットを生かした上でプログラムを組んでいかないといけないわけですが、日本にいるときはなんとなく人が書いたプログラムを走らせて終わりだったので、結構痛い目にあいました。ちょっとずつですがこの経験をベースにして研究のクオリティが向上しつつはあるようです。

“Do not make blackbox

 これです。日本ではUSGSのグループが組んだシミュレーションソフトをつかっていて九重火山の地熱地帯を研究していました。ところが地震学は非常に解析技術の発達した科学体系です。プログラムも正確に理解したうえで使用しないと結果がでません。ちょっとした問題が持ち上がっていて、僕が“ここはこうこうすれば問題がでませんよ”といったところ“いや、それは問題を特定した上で解決しているわけじゃないから駄目だ。”とバッサリ。
論文も正確を期した上で読まなくてはいけません。彼は授業が嫌いですが論文の理解、理論の解説は一級です。目から鱗の経験を僕は何度もして、その度に自分がいかに科学として不十分な取り組みをしてきたかを自覚せざるを得ませんでした。


 彼は超一流に属するサイエンティストではありません*3。が、間違いなく一流です。それも科学者として確かな蓄積をベースにして、論文を積み上げてきた人です。日本にいたとき出会った人たちも立派な専門家ではありました。しかし研究者としては残念ながら疑問符をつけざるを得ませんでした。専門家としての知識の集積とそこからさらに一歩踏み出て何かを積み上げ、変え、論文として世界の科学に足跡を残すのは、全く別物なのです。
 一つには、彼が往時のMIT/WHOIのJoint Programで研鑽してきたこともあるでしょう。しかし、彼には一流のサイエンティストに往々にして見られるように単純な経歴を越えた確かなものを日々のやりとりから感じます。学生の指導についてしっかりとした方針やプロセスを持っているので、こちらも非常にやりやすいです。


 実はこの所属学科はそんなに人は多くありません。修士も含めて一学年10人弱です。おまけに僕の部屋は“お隣は○―メイ教授”といった状況です。悪いこと出来ません。ちょっとしたことから真剣トークなんて、ざらです。ぶっちゃけ2nd tierですが、日本で地球環境破壊工学を学んでいた日々のような欺瞞や物足りなさを感じたことが僕はないです。まぁ、日本では学部と院でかなり頑張っていたので、もう少し選択肢はあったのではないかという気はするのですが、ここまで来て、彼に会えてよかったなと。

ちゃんとした結果まで、もう一頑張り。

*1:しかし、日本とは違って2週に一度は宿題が出るアメリカの教育文化をしっかり踏襲している

*2:彼は、2時間に一度といっていた

*3:某K先生みたいに地球科学にノーベル賞があれば的な、歴史上にのこるようなレベルとは乖離があるというだけ。