Kalessin Action ― The Never Ending Endeavour ―

地震・火山専門の研究開発員のブログ。あららぎハカセ(理学)。つくばで高いところに行くモノ🛰の中身を作ってます。

"Alfred Nobel would be very happy"

今年のノーベル物理学賞は日本にとってもですが、私個人にとっても非常に感慨深いものになりました。

ノーベル賞公式サイトプレスリリースより


青色ダイオードのパイオニアの先生方の受賞。日本中に衝撃が走ったあの東京地方裁判所の判決から10年以上、とるのでは、あるいはノーベル賞には向かない業績なのではと言われ続け、とうとうその日がやってきました。ノーベル賞委員会が発表した受賞理由は

「明るくて省エネルギーの白色光源を可能にした高輝度青色ダイオードの開発」
"for the invention of efficient blue light-emitting diodes which has enabled bright and energy-saving white light sources".


理論的な側面よりも、むしろその影響が人類にとってかけがえのないものであることが受賞の決定的な要因とされた、ノーベル賞らしい理由での受賞でした。委員会の方が何度も

”Alfred Nobel would be very happy about this prize”


と仰っていましたが、かつてこれ程の賛辞を贈られた受賞はあったでしょうか。少なくとも私は知りません。

私が嬉しいのは、どちらかというと個人的な理由です。中村修二先生の判決が出た時私は学部生になりたてでした。自分はどちらかというと巨額の富をもたらす開発をという感じではないと当時から感じていましたが、それでも"理系でもそれなりのことをすれば認められるのだ"ととても嬉しく思ったことを覚えています。逆に結局,発明の偉大さにはいささか不釣り合いな和解に終わったニュースはもう、どうしようもない位ショックを受けていました。さらに追い討ちをかけるように、さも中村先生が人の業績を掠め取ったと言わんばかりのバッシングが沸き起こり,やりきれない思いに苛まれていました。無論青色ダイオードの開発やその後の発展には多くの方が携わっていらっしゃったのは事実です。しかし彼なしには、彼の業績なしには,先へは行けなかったことは同じ位揺るぎない事実です。一時はそのことさえも疑念が呈されるような風潮がまかり通っていましたが、今回の受賞で*1もはや彼の名誉が損なわれる事はなくなったと言っていいでしょう。

ノーベル賞そのものの栄誉もですが、賞金とほぼ同額の費用を使って慎重に行われる(今のノーベル賞の)綿密な選考プロセスを経た決定だから、それが尚嬉しい。当然調査は中村先生の論文は勿論、裁判や既に出版されている本をカバーしている筈です。おそらく今回の発表に際してノーベル賞委員会が送った何気ない、しかしこれ以上ない賛辞は彼の今までの経緯を踏まえてもいるのではないでしょうか。

当初からどっちがえらいとか、本当にノーベル賞を取るべきなのはとか何かと対照されることが多かった赤崎先生だけでなく、赤崎先生の初期のラボで重要な業績を上げた天野先生をきちんと受賞者に含め、なおかつ両グループの特に実験への情熱、技術が評価されることで誰の名誉も貶められることはなくなったと思っています.日本がアメリカがと言う人もいますし、私も気にしてましたが、UCSBの動画を見て、関係者がみんな嬉しそうにしてるのを見ると、日本もアメリカもみんなで喜べるからむしろこれで良かったのではないかと感じています。




UCSBの記者会見の様子.記事はこちら

思い起こせば和解のニュースが流れ、落胆していましたが、免許を取り立ての自分が街に車を走らせると眩しい位明るい新しいダイオード信号が目に入り、例え裁判には負けてもこうも身近になったかけがえのない成果に逆に勇気付けられたことを思いだします。あれから月日が流れ,ノーベル賞ではないのではないかともいわれた青色ダイオードは、結局一番ノーベル賞らしい理由"Great benefit to mankind"として文字通り最高の栄誉に輝きました。私にもいろいろありましたが、ひとまず、人のくらしを変えた偉大な進歩とそこから先の未来,そして自分にもいつか少しでも世の中をかえ、自分が学んだことを世界に返せるように思いを新たにし、目の前の白い光をみつめ、この栄誉を喜びたいと思います。3人の先生方,本当におめでとうございました.




https://twitter.com/NobelPrize/status/519446880343044096

*1:もちろん,中村先生は既に数えきれない位のアカデミアでの受賞歴があるわけですが...