Kalessin Action ― The Never Ending Endeavour ―

地震・火山専門の研究開発員のブログ。あららぎハカセ(理学)。つくばで高いところに行くモノ🛰の中身を作ってます。

海外流出って言うけれど

 今回の事業仕分けを通して”人材の海外流出がすすむ”という話がよく語られます。そうした議論を通して日本の科学の在り方が問われるのは大いに結構だと思います。が、”日本じゃだめだから”的な論理はちょっと待って欲しい。

 そもそも海外流出って、大昔、日本に研究資材が十分にない時代に存在した言葉です。たとえば僕が再三このブログで言及している安芸先生(余談ですがつい数年前に彼は本当の伝説になってしまいました…)や金森先生(まだまだお元気です。文字通り生ける伝説です)なんて方たちは戦後ちょっとしてMITやCaltech(どちらも全米理系最高峰の大学。地球科学も非常に盛ん)に流れてしまったのですが、流れっぱなしかというとそうでもなくて、最近では東京大学名古屋大学客員教授をされて、集中講義もちょくちょくされておられます。また、安芸先生は日本物理探査学会の会長を務めておられました(多分渡米後だった筈)。

 現在研究者によっては国境を越えて飛びまわっている方が数多くいらっしゃいます。そんなわけで”海外流出”という言葉はちょっと時代に似つかわしくなくなっている気がします。

むしろ海外での学究活動はもっと推奨されるべきです。

 なぜか?海外留学ってなにもレベルの高い研究者にあうだけが目的じゃないんです。レベルの高さなら、たとえば地球科学でいったら、日本には東京大学地震研究所(ひとよんでサブダクションに集う猛者達)という世界最強の地震研究所があります。ここは地球科学全般をあつかっていて、学部は別の大学で、大学院でここにきて立派な学者として大成された方も大勢いらっしゃいます。ここから世界に飛び立っていってしまった方も、もちろんいらっしゃいます。
 それでも尚、僕は特に大学院レベルでの留学を強く推奨します。まず、米国の場合、学費タダです。工学部など、場合によっては最初は支払う必要があるケースがありますが、修士でもRAを見つけてしまえば最後までは払わなくて良かったりします。
 海外に暮らすこと、それだけでも非常に勉強になります。たとえば住所関連のシステムが違ったり、生活の細かいところが違ったり、日本では当たり前と思っていたことが当たり前でなかったりなど、わくわくドキドキがいっぱいです。ここEugeneはまあ、田舎ではあるのですが、日本の田舎とは違った風情があったり、僕の専門でいったら、ばかでかい火山がちょっと車を走らせればあっちゃこっちゃあるような環境は、日本ではないです。

 もちろん、楽なことばかりではありません。授業は日本と違って週に何回かあって、宿題もマメにでます。皆さんが中学・高校生位の時のようにきちんと勉強しなければテストでは点は取れません。わからなければ質問に行ってコミュニケーションとるし、ちょっと考え方、ものの見方が違うので日常のちょっとしたやりとりでも”ああ、こういうこともあるのだな”と驚いたり、そうやって試行錯誤で人と接していく経験は、絶対に貴重な経験なのです。
 日本で大学院に進学した時は当然学部であまり経験のない状態ですので、そのまま同じ研究室にということも多いですが、海外ですと、自分からアプローチしないとチャンスは降りてこない、逆に言うと自分から行動を起こせば自分の好みの環境を整えることができます。そういう”自分はこう考えて、こう行動して、リターンがこれだけあったんだ”という手ごたえはプラスになります。
 例えば今僕は海底地震探査のプロジェクトにかかわっていますが、これは現在担当していただいている教授が数年前に集めたデータを元にしています。海洋物理ってお金がかかるので、本当に貴重なデータを扱っているのだなという実感でわくわくしている毎日です。

 
最近の僕のイメージ(出典元:id:tsugo-tsugo:20090227)
 この間ファンデフーカにいったときのデータもこれから何年かかけて解析していくので、本当に楽しみです。”いままで見つかってないマグマだまりみつけた〜”とか、”あの仮説がここではどうなっているのかな〜?”とか教授と日常的に話したりするのはめちゃめちゃ楽しいです。それに自分のかつての専門分野の仕事とどうからめるのかとか、いろいろ苦労はある筈ですが、ネガティブ思考と無縁の生活をしています。


 ちなみに僕の本体は米国のとある大学の地球物理学科の博士課程の学生です。実は日本の博士課程のとある奨学金の面接まで受けて落っこちています。"人材流出ぢゃねぇか"と突っ込まれるかたもいらっしゃるかも知れませんが、残念ながらそんなことはないです。そもそも面接時のカテゴリーが工学部の学生(もともと採鉱系の学生だったのですよ。地球なんとかという名前にだまされたくちです)のくせに生意気にも”固体地球物理”だったので、当たり前のように門前払いを食らってしまいました。しかもよりによって面接官が日本(世界)最高レベルの地質学者(マグマ学)だったりします(@_@;)。その人の本ももってますし、学会でわざわざ講演に足を運んだりしています(ひょっとするとこのブログでもう登場しているかも知れません・・・・(^。^)y-.。o○)
 …そんなわけで日本にいた時は現在の専門(火山・地震)に関してはズブの素人でしたので、人材流出にはあたりません(涙)。まぁ、博士村にたどり着く前に”死亡または行方不明”になってしまった部類になるのでしょうか(号泣)。