世界一熱い思い -IDDP(Iceland Deep Drilling Project)- [2]
前回大まかなことは紹介しました。今回はもう少し細かい話をしたいと思います。
このプロジェクトは従来型の地熱発電の出力の改善のみならず、より高精度な熱源評価による地熱発電の持続性の向上や、資源量の見直しをも含まれています。従来型の地熱発電は熱源を“熱水の流入”としか取り扱っておらず、正確な“熱源(マグマ)”として評価しているわけではないのです*1。さらに、深部掘削による周辺環境の評価や高温岩帯発電としての資源開発も考慮されています。
こうしてタイトルを列挙すると焦点がぼやけてしまう感覚がありますが、現在到達していない深部領域のデータを科学・工学両面から研究していくということです。このことについては次回もう少し書きます。
70年代に"Magma Energy Program"として行われていた非従来型の地熱発電を目指した取り組みは、まだマグマ周辺の高温環境が十分理解されていなかった時代のプロジェクトです。マグマの物理的な挙動が数理的に解明され始めたのは80年代後半になってからですので、明らかに時代が早すぎたプロジェクトでした。IDDPが始まったのは2000年代、今年でもう10年になりますが、未知の開発領域への試行錯誤は未だ継続中です。
IDDPは計画に先だって微小地震などによる予備調査を行っています。現在地熱発電所が存在するクラプラ等3箇所を掘削地点の候補にしており、レイキャビックから掘削は始まっています。ここでは掘削自体はできたものの、流体生産が芳しくなかったためクラプラに場所を変えて継続されています。ただし、レイキャビックでも引き続き通常の地熱開発を目的とした流体生産試験は行われています。現在行っているクラプラでは去年の夏、マグマが吹き出てくるという事態が発生し、一度掘削はストップしています。プロジェクト自体は継続される模様です。
IDDPの出資は主にNSF(USA)、ICDP(国際掘削計画)、アイスランド政府・企業です。関わりのあるUSAの研究者は首席研究者のElders教授、Stanford大学のBird教授、あとオレゴン大学のReed教授とUC, DavisのSchiffman教授とUSGSの研究者です。Reed教授は*2地熱関係の地球化学の計算で業績を上げてこられた方です。ということで僕もちょくちょく自分の計算結果を持ち込んで、なんとか“じゃぁ、なにかプロジェクトでも考えようか”という状況に持ち込むことに成功したところです。余談ですが、彼は日本の地熱関係者とも何度か共同研究していて八丁原地熱発電所とか九重*3とかWD-1(葛根田の掘削井の名前。これは筋金入りの地熱研究者しか分からない)とか地熱マニア御用達の単語が通じます。
実は周知の通りアイスランドは近年経済危機に瀕しており僕もReed先生も成り行きを心配していたのですが、先日ひとまず2年分の予算の継続が決定したということで喜んでいたところです。わーい。
今回の予算については掘削計画のみならず科学調査にも予算が増額されるとのことで、近年風向きが非常によいアメリカ合衆国の地熱発電事情を受けた決定のような気がします。
次回は科学的な意義などを補足します。
Reed先生からもらった最近の流体生産試験の様子。